夜に輝く


 星の綺麗な夜。僕は毎日外へ出て、ビルの谷間からかすかに見える天の川を見るのが好きだ。でも父さんから聞いた話だと、昔は都市では星なんか見えないくらい街灯がまぶしかったらしい。今はところどころにポツンと申し訳程度にしか街灯のあかりはない。何でこんな事になったかって?父さんから聞いた話によるとね・・・

 ある時女性に奇抜なファッションが流行り始めた。まず「茶髪」。髪を茶色に染めるんだ。なんでそんなことをするかって?印象が明るくなるっていう話だったけど、芸能人のマネをしただけじゃないかな?
そして「ガングロ」。顔を真っ黒に塗って、白や青のアイシャドウや口紅を塗るんだ。それもなんでかって?そんなのわからないよ。女性の心理は謎に満ちているからねえ。
そして遂にあのファッションが登場したんだ。そう、蛍光や夜光顔料を使った化粧品たちさ。
「それを使えばあなたは光り輝いて見えます」
って訳さ。駄洒落みたいだけど、みんなその当時は真面目だったらしい。その証拠に世界中の有名な化粧品メーカーがこぞって類似商品を作っていたそうだから。
まず最初に登場したのがアイシャドウと口紅。暗いところ、特にダンスホールやディスコみたいな照明の暗い所では結構目立つから、そういうところに出入りする女性の必須アイテムになった。次にファウンデーション。こっちは口紅なんかとは違って、わずかに発光するだけのもの。だって顔全体が光っちゃったら口紅やアイシャドウが目立たないだろ?これらを併用するとぼうっと白く光った顔とはっきり自己主張する唇と目が印象的に対比できるって訳さ。
このファッションはどういうわけだか受けた。母さんから聞いた話だと、昼間は普通だけど、夜になるとうっすら白く光るので、肌がきれいに見え、若く見られたからだって。だからあんまり化粧に興味関心のない普通の女性でも、「一度使ってみよう」という気になり、あちらこちらで大流行したんだそうだ。
するとちょっとでも他人と違うことをアピールしたくなるのが人情ってもんだろ。特に最初から使っていた人たちはそう思ったみたいだ。ファウンデーションを全身に使う人が出てきたりした時には、これが商売になると感じた石鹸やシャンプーのメーカーがこの分野に参入した。「お風呂上がりから輝いて見えます」がキャッチフレーズだったんだそうだ。
でもだんだんと問題も増えてきた。まぁ蛍光や夜光の顔料が環境に優しくないとかいうのは序の口だったらしいね。何よりも問題だったのは、これらの化粧品は「暗いところ」でないと本来の効力を発揮しないこと。今なんかと違って当時はあちこちに街灯が光っていて、世の女性のファッション心を台無しにしていたんだ。彼女たちは少しでも目立つために都市の中でも暗いところを探し始めた。またちょっと都心を離れた街灯の少ないところにも進出し始めた。自分たちをより美しく見せるために。
ところが、暗いところに光っているもんだから、路上強盗の標的になり始めた。またそれとは知らずに歩いていた老人が、ぼぅっと光る姿を幽霊と勘違いし、心臓発作を起こして死亡するという痛ましい事件も頻発するようになった。
ここに至ってメーカーも自主規制を始めたけど、海賊版が横行するだけだった。政府も禁止を検討し始めたが、法的に禁止するのは難しかったので、街灯の数を増やすことで対応した。そして熾烈な戦いが始まった。どんどん暗いところを求める若者、そしてどんどん増える街灯。一部の若者は街灯を片っ端から壊し始めたが、これには警察が対応した。相当狂乱状態だったみたいだね。
天文学者を中心とする一部の人々が街灯を増やしすぎる事に反対したにも関わらず、やがて世界中どこもかしこも光であふれるようになった。
そして破局はあっさりと訪れた。エネルギーの供給が追いつかなくなり、全世界的な停電が襲ったのだ。しかし若者も勝利者にはならなかった。何故なら化粧品を製造する工場も止まってしまい、製品が手に入らなくなったから。

 でもあれで良かったのだと僕は思う。随分長い間混乱が続いたらしいけど、その間に光に埋もれて忘れていたものをみんなが取り戻せたのだから。この星の美しさを初めとする自然の素晴らしさ、そして女性も飾り立てるだけが本当に自分を主張したり、光り輝くのではないことを知ってくれたのだから。